我が町の隠れ切利支丹にまつわる話 その六
それから三十分もしないうちにその女性が戻ってきて、彼女がその手にしていたのは、キリストの降誕(誕生)のネイティビティーでした。 ネイティビティーというのは、幼子イエスが家畜小屋で生まれた場所を表したミニチュアで、キリスト教の国ではクリスマス前にツリーなどと一緒に普通に飾る物なのですが、通常は家畜小屋と幼子イエス、聖母マリア、東方三博士、牛とロバ、羊飼い等がセットになった物なのです。 うちのお店でも、陶器で出来た小さなネイティビティーのセットをクリスマスの時期には何度も販売した事があります。 彼女が持ってみえたのは、横幅30センチ、奥行きは20センチはあろうかという木と藁で出来た家畜小屋のミニチュアでした。 彼女曰く、これも家にあったので一緒に持って来ました、もしよかったら貰ってくださいという事でしたが、そのネイティビティーもパリの現地で購入したものらしく、日本では一度も見たことも無いような極めて珍しい物でした。 そしてメダイというのは、二センチ程の小さな楕円や丸のペンダント状のメダルのことで、聖母マリア様とイエス様が表面に彫られたものが一つずつ、そしてもうひとつは記憶があまり定かではありませんが、天使か、若しくはある聖人がモチーフされていたものではないかと思われます。 彼女から頂いたメダイは、パリにある「奇跡のメダイノートルダム教会」の、俗に「不思議のメダイ」と呼ばれている物で、このメダイのいわれは、百年近く前に、聖カタリナラブレという修道女の前に聖母マリアが突然現れて、このような図像でメダイをお作りなさいと図柄を示したという霊示から、しばらく後に聖母の言われた通りに彫金師によって作成されたということで、このメダイを身につけて祈った人々に奇跡の恵みが起きたことから、いつしか「不思議のメダイ」と呼ばれるようになったというものです。 このメダイについては、ネット通販などで見るとこのメダイを持つと良いことが起こるというように、あたかもお守りのようなニュアンスで販売されています。 しかしこれは全く以て大きな間違いで、そもそもメダイは決してお守り等ではなく、メダイを身に付けた人が神や聖母、イエスを信じて祈ることが大切なのであって、ロザリオと同様本来は祈りのための道具なのです。 さらに大切なことは、司祭(神父)によって祝別(祝福)されたものかどうかが重要なので、ただ売られたもの